太陽光発電投資物件の選びのポイント
1.はじめに
SDGsや脱炭素の流れを受けて、世界中で再生可能エネルギーが重視されるようになっています。個人投資家の間にも太陽光発電設備への投資が浸透し、良い物件にはすぐに買い手がつく時代になりました。しかし、投資案件を選択する基準についてはあいまいな面も多いため、よくわからないままに投資して失敗しているケースも散見されるようです。
今回は、太陽光発電事業の評価ガイド策定委員会が策定した「太陽光発電事業の評価ガイド」を参考に、太陽光発電投資における物件選びのポイントを紹介します。今後太陽光発電の投資物件の基本情報を収集するとき、また現地調査をするときにどの資料のどのような点に着目して調査すればよいのかが理解できると思います。
2.「太陽光発電事業の評価ガイド」設定の背景
「太陽光発電事業の評価ガイド」は太陽光発電協会(JPEA)が主体となって編纂した、太陽光発電事業におけるリスク評価のガイドラインを示したものです。FIT(固定価格買取制度)が始まった当初は、安全性の確保や法的な整備が整わないうちに事業を開始するケースが少なからず認められました。資源エネルギー庁には、モジュールや架台の飛散や崩れ、土砂の流出、モジュールの焦げや発火などのトラブル事例が報告されています。
このような背景から、太陽光発電事業のリスクを軽減して再生可能エネルギーの長期安定電源としての普及を図るとともに、今後拡大されるセカンダリー案件(稼働中の中古物件)の取引活性化を目指して、「太陽光発電事業の評価ガイド」が制定されました。原文は、JEPA公式ホームページからダウンロードできます。
JPEA:太陽光発電事業の評価ガイド http://www.jpea.gr.jp/topics/hyouka_guide.html#to_guide
3.「太陽光発電事業の評価ガイド」に基づく物件選びのポイント
太陽光発電事業および発電設備について、どのようなリスクが存在するかを評価する際には、以下のようなカテゴリーに分けて検討する必要があります。
1 土地・権利関係の確認
2 土木・地盤に関する確認
3 発電設備に関する確認
3-1.土地・権利関係の確認
A:土地の利用に関する権利
土地の利用に関しては、土地利用権の種類、そして土地上の法令上の制限がクリアされているかについて調査します。太陽光発電における土地利用権は、主なものとしては所有権、地上権、賃借権の3つです。どのような権利の土地利用権が発電事業者に移転されるのかについて確認する必要があります。具体的には、土地登記簿謄本、公図等を入手して事業用地の地番と所有者を確認し、今回の土地利用権の設定方法を確認します。土地に関する情報として、販売業者と所有者とはどのような関係にあるのか、土地が見つかった経緯、隣地との関係などについても販売業者に聞いてみるとよいでしょう。
法令上の制限については、発電用地にどのような制限があっていつ許可・承認を取得したのかを質問してみるとよいと思います。特にメガソーラー(高圧)の場合には大規模な工事になることから、法令上の制限に関する手続きが多くなりがちです。例えば、気を伐採するときには森林法に基づく林地開発許可(通称:リンパツ)、都市計画法に基づく開発許可、国土利用計画法に基づく届出、文化財保護法に基づく照会、その他自治体の景観条例や太陽光発電に関する特別な条令などがあります。低圧の野立ての発電所で多いのは、登記簿謄本の地目が「畑」となっており、地目変更と農地法上の転用許可が必要となる場合です。こちらも農転許可が下りているかについてはチェックしておきましょう。
B.売電事業を営むための権利
売電事業を営むためには、経済産業省の設備認定と、電力会社との電力受給契約が必要となります。それぞれ、設備認定書(変更認定書、軽微変更届など)や接続検討回答書、連系工事負担金に関する契約書などによって、関係各所から売電事業に必要な認定や承認が得られているかを確認します。また、連系ポイントや連系工事の期間などについても併せて確認することは、確実に連系ができる案件かどうかを見極めるポイントになります。
3-2.土木・地盤に関する確認
A:地盤や周辺状況に関する事項
地盤については、ボーリング調査や地盤調査の結果、そして地盤に合った工法や杭の種類を選択しているかについて確認します。近年は大雨や台風が多く、地盤のゆるみや土砂の流出によって、架台が傾いたり、杭基礎が露出したりしている現場が見られますので、特に注意したいチェック事項です。
周辺状況に関しては、周辺に地割れや土砂の崩落がないか、高い構築物や山、樹木など影の影響を受けるような事項はないか、雑草の生育状況はどうかに関しては現地調査で確認します。雑草の伸び具合は除草工事の経費がどれだけかかるかに影響してきます。
B:土木工事に関する事項
土木工事に関する事項で特に注意したいのは、崖や法面の処置と排水に関わる点です。傾斜地は太陽光発電の立地としては悪くないのですが、土砂崩れ(小規模な土砂の流出)が起きている現場は多数見られます。このような傾斜には草を生育させたり、網状の補強材を設置して土砂の流出を防いだりしますが、そのような対策をとっていない現場もしばしば見受けられます。
また、特にメガソーラーなどの大規模な現場の場合には、排水溝や川までの排水計画や調整池の工事内容については念入りに確認します。近年では大雨の頻度が多く、調整池を※浚渫(しゅんせつ)しなければならないケースがあり、そのような対応が適切に行えるような現場であるか、確認すべきでしょう。※浚渫(しゅんせつ、dredging)とは、港湾・河川・運河などの底面を浚(さら)って土砂などを取り去る土木工事のことである。
3-3.発電設備の確認
発電設備については、設備機器のメーカーや仕様はもちろん、モジュールの地面からの高さ、架台の角度や高さは設計図通りになっているかを確認します。モジュールの角度は発電量シミュレーションに関わってきますし、モジュールが地面からあまりにも近いと、雑草の影響を受けやすくなります。また、最近では、各電力会社から出力抑制対応機器への変更についての要請が頻繁にあります。出力抑制に対応しているPCS、あるいは監視装置であることは、連系の条件になっていますので、その点もチェックします。
4.太陽光発電設備施工業者を選ぶポイント
一時期は地域の電気工事会社がこぞって太陽光発電の施工を行っていましたが、現在では施工実績の多い企業が施工している場合が多いと思います。安定した太陽光発電事業を目指すためにも、次のような項目は事前に検証しておくことをお勧めします。
4-1.規模や実績
企業規模(資本金、売上高、従業員数など)や今までの施工実績は、信頼のおける施工かどうかの目安となります。今までの施工実績を紹介してもらい、実際に稼働状況を見学してみることも一つの方法です。
4-2.モジュールやPCSの仕入先の情報
モジュールやパワーコンディショナー(PCS)は近年では海外製のものが使われることが多くなりましたが、日本でのサポート体制が確立しているかという点は重要です。モジュールは飛来物や台風などで容易に破損します。またPCSについても本体の故障のほか、冷却ファンの取り換えや監視装置の部品交換など、稼働中にもサポートが必要になる場合があります。その際に部品の供給や修理のサポートがしっかりと受けられるかは、販売業者に確認しておくべきでしょう。
4-3.O&M体制のチェック
O&Mとは「オペレーション&メンテナンス」の略で、主に稼働中の保安保守検査、修理・メンテナンスのことをいいます。特に台風などのトラブルや機器の故障の際に現場に行ってもらう体制が整っているか、その際にはいくらぐらいの経費がかかるのか、O&M契約に含まれているのか否かをチェックします。
関連ページ:太陽光発電所の運営管理(O&M)
5.投資生産性の観点からの確認
太陽光発電事業も投資のために行うのであれば、さまざまな指標による財務上の検証が必要になってくるでしょう。内部収益率、投資利回りなど、いくつかの観点がありますが、詳細については別のコラムにて紹介します。※現在準備中
6.まとめ
太陽光発電事業は設備に関することばかりではなく、土地や権利に関する事項も検討対象となるために、すべてを自身で判断することは難しい面があります。しかし、資料がきちんと整っているか、担当者がきちんと詳細についてまで説明できるか、予定通りに工事が進んでいるかを確認することで、信頼できる施工が行われているかについて判断することができます。不安な点については質問表を送って回答をもらうなどし、長期にわたって安心できる事業運営を目指しましょう。