太陽光発電事業の出口戦略
1.太陽光発電事業の出口戦略
太陽光発電投資は株式や不動産などの一般的な投資に比べてインカムゲインが大きい反面、以下のような特殊性があります。
- FIT制度の売電期間が20年と決まっている
- 設備が老朽化およびFIT期間の終了によって売電収入が減少し、いずれは売電収入が維持費用と均衡する状態にとなる
- 売電事業を終了するときには設備の撤去費用がかかる
これらの特徴を踏まえて、出口戦略を考えることになります。
1-1.FIT期間中に売却する
まずは、FIT期間中に高い売電収入が維持されているうちに売却することが考えられます。この場合、毎月のキャッシュフローと、売却収入から借入の残債額と手数料などの諸費用を差し引いた額の合計額が投資収益となります。
現在では、世界的な脱炭素の流れを受けてセカンダリーマーケットが過熱しており、特に上場企業をはじめとする大企業が中心となって稼働済みのメガソーラーの取引が行われています。売却希望の案件自体が枯渇しているために、FIT期間が数年経過しているにも関わらず、投資した当初の金額に近い価格で売買されているケースも散見されています。
1-2.FIT期間終了後に売却する
次に考えられるのは、FIT期間終了後に売却する方法です。固定買取制度が始まった頃の投資シミュレーションでは、FIT期間終了後の状況が不透明であったため、FIT期間終了後は撤去して終了することを前提に事業計画を立てていました。
しかし、住宅用の太陽光発電について一足先にFIT期間が終了し、再生可能エネルギー企業との相対での売電がスタートしていることを受けて、事業用の太陽光発電設備についても、FIT終了後も売電が続けられる可能性が高いと考えられています。従って、FIT期間終了後に発電設備を売却して投資回収を図ることも考えられるのです。
この方法の場合には、事業がうまくいっていればすでに金融機関からの借入は完済しているために、20年間のキャッシュフローと投資終了時の売却価額の合計がそのまま投資収益ということになります。
1-3.機器が使えなくなるまで運用する
FIT期間終了後も、機器が使えなくなるまで自ら売電事業を続けるという方法も考えられます。設備の老朽化によって、売電収入がO&M費用、設備更新費用、地代などの必要経費を下回りそうになった時点で事業を終了し、機器を撤去して授業を終了することになります。
この場合、設備の売却収入はなく逆に撤去費用がかかってくるために、事業継続した期間のキャッシュフローの合計から撤去費用を差し引いた金額が投資収益になります。
1-4.FIT期間終了後に適切な規模の再投資とメンテナンスを繰り返す
制度上不明な点があるので、正確なことは言えませんが、FIT期間が終了して、順次発電所が解体撤去されていくと、せっかくの再生可能エネルギーの自給率が下がってしまうことになりますが、このようなことを政府が各種の再投資を促すための環境整備や政策を打ち出すものと考えられます。
2.価格査定の方法
発電設備を売却して投資回収を図る場合には、発電設備の価格の決定方法が重要になってきます。現在のところ、不動産市場や自動車市場のように中古のマーケットが確立されているわけではなく売買事例も少ないために、ほぼ相対交渉での価格形成となっています。このため、公正な価格でない値段で売買されることもあります。今後は、他の投資対象と同様に、太陽光発電投資からどれぐらい利回りを期待するかという観点から価格が形成されていくでしょう。
つまり、DCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法により投資期間の投資収益を期待利回りで割り戻した合計額が取引価格の目安になると考えられます。FIT期間終了後の売買の場合には、撤去費用を見込んだ額での売買となるために低廉な額での売買になることが予想されます。
3.売却時にかかる費用
売却の時にかかる費用は、設備を売却して終了する場合と撤去して終了する場合とで異なってきます。特に撤去して終了する場合には15年から20年ぐらい先のことになりますので、市場環境の変化や新しい法令の制定などさまざまなリスクについても勘案しなければなりません。
3-1.セカンダリーマーケットに売却する場合
セカンダリーマーケットに売却する場合には、経済産業省の設備認定の名義変更(軽微変更届の提出)、電力会社の契約名義の変更等に関わる名義変更手数料(仲介手数料)がかかります。不動産における宅建業法のように仲介手数料の上限が法律で設定されているわけではありませんが、不動産やM&Aの仲介手数料に準じて、売買価格の3%から5%を仲介業者が受け取っている場合が多いようです。
また細かいですが、金融機関からの借入を弁済する場合、期限前弁済手数料と集合動産譲渡担保や売電債権の質権設定の解除に関する司法書士報酬が発生します。
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3-2.稼働終了後撤去する場合
稼働終了後に撤去する場合には、撤去費用がかかります。環境省のガイドラインによれば、撤去費用として建設費用の5%程を見積もっておくことが標準と見られていましたが、今後同時期に太陽光モジュールやキュービクル、架台が大量に廃棄されることが予想されており、撤去費用が増加する懸念はあります。この場合、FIT終了後に見込まれる売電収入と、事業継続にかかる必要経費、有害物処理費用を含めた撤去費用を総合的に考慮して、事業終了の時期を定めることになります。
4.売却時(イグジット)に関わるリスク
太陽光発電投資についてイグジットを迎えていているケースはまだそれほど多くはないために、イグジットにおけるさまざまなリスクを予想して対応方法を考える必要があります。イグジットの方法ごとにリスクを考えてみましょう。
4-1.途中売却する場合
売電事業の途中で売却する場合の主なリスクとしては、売却価格変動リスク、買主の探索に時間がかかるリスク(流動性リスク)が考えられます。
現在では投資需要が大きい一方で案件が少ないために、流動性リスクは極めて低い状況にあります。しかし、例えば太陽光発電所で大きな事故が発生してメディアに取り上げられるような事態となった場合には、買い手がなかなか見つからないという状況になることもあるかもしれません。
4-2.FIT終了後まで所有し続けて撤去する場合
撤去して事業を終了する場合には、撤去費用の高騰リスクや経済状況の変化・法制度の変更リスクなどが考えられます。
太陽光投資事業は20年以上の長期間の投資になりますので、その間市場環境や社会状況の変化が起こることは否めません。現在定まっていることは、20年間FIT価格が固定されているというだけで、撤去費用や事業者の責任については今後新たな法制度やガイドラインが制定される可能性があります。
5.まとめ
太陽光発電投資における出口戦略については、一通りではありません。事業途中の売却も有力な出口戦略ですし、FIT期間終了後も電力会社との相対取引で売電することにより事業を継続することも可能です。
しかし、事業投資である以上は投資収益が最大化する出口戦略を検討すべきです。売却を伴う出口戦略は市場環境に左右される面はありますが、早期に収益を確定させるためリスクは少なくなります。
長期間売電事業継続すると安定した収益が見込める半面、遠い将来の市況や社会環境の変化など予測できない部分が多くなってきます。どの出口戦略が最善であるから一概に言えませんが、自己の投資目的と想定する投資期間に合った出口戦略を選択しましょう。