2年間で日本の市場が4.6倍に急成長したESG投資とは?
1. ESG投資とは?
近年、テレビやニュース、新聞などで「ESG・ESG投資」という言葉を目にする機会が多くなってきています。本記事では、最近注目されている「ESG」に関して詳細に説明していきます。
「ESG」とは、そもそもどういうものなのでしょうか。「ESG」とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字から構成されています。そして、「ESG投資」とは、これら環境・社会・ガバナンスという「社会への貢献度」を意思決定の指標として取り入れた投資のことを指しています。これまでは、企業の財務状況、つまり企業の利益が増加するかを判断基準に投資が行われていましたが、近年は企業の財務状況に加え、「社会に対してどのように貢献していくのか」という判断基準も重要視され始めてきました。
特に年金基金など莫大な資産を中・長期で運用する投資家の間で、企業経営のサステナビリティ(持続性)が重要と考えられ、気候変動などの環境や社会など非財務情報も念頭においた長期的なリスクマネジメントを評価するベンチマーク指標としてESGが注目されています。
ESG(環境・社会・ガバナンス)がそれぞれ持つ言葉の意味としては以下の通りです。
《Environment:環境》CO2排出量の削減や再生可能エネルギーの利用、廃棄物削減など環境へ配慮した取り組み
《Social:社会》従業員の労働環境・ワークライフバランス等の向上、女性の活躍推進などに対する取り組み
《Governance:ガバナンス》情報開示等を行い透明性の高い経営への取り組み
2.SDGsとの違い
ESGに類似するキーワードとして、「SDGs」があげられます。SDGsは「Sustainable Development Goals」の頭文字から構成されており、「持続的な開発目標」と呼ばれています。
SDGsは、MDGs(Millenium Development Goals:ミレニアム開発目標)の後継目標として位置付けられています。MDGsは、2000年にニューヨーク(米国)で開催された国連ミレニアム・サミットにて採択された「国連ミレニアム宣言」と、1990年代に開催された国際会議やサミットで採択された「国際開発目標」を統一した枠組みです。MDGsは、2015年までに達成すべき目標として8つのゴールと21のターゲット項目を掲げており、この目標に193の全国連加盟国と23の国際機関が合意している。MDGsの開発目標の柱は以下の通りです。
そして、MDGsの後継目標として、SDGsが2015年の国連サミットで採択され、2016~2030年までの開発目標として「17個の目標」と目標に関する「169個のターゲット(具体的な目標)」で構成されています。
(出所:外務省「SDGsの概要及び達成に向けた日本の取組」より)
SGDsは、世界の諸問題に対し、17個の目標を掲げ、各国でそれぞれ取り組みながら、世界全体で解決していくための指標として位置付けられています。一方、ESGは投資的観点で企業の社会的意義、そして中長期的な持続的発展を環境・社会・ガバナンスの観点から評価し、投資が行われます。別の考え方としてESGとは、企業が「どのようにSGDsに取り組んでいるのか」を評価しているとも考えることができます。つまり、企業利益の追求に加え、SDGsへの積極的な取り組みはその企業の社会的意義・価値が高く、ESGの観点でも高い評価が得られ、投資にも繋がっています。
3. ESG投資の市場規模は急成長?
近年、投資の判断軸は企業の財務状況だけでなく、如何に環境・社会・ガバナンス的により良い取り組みを行っているかが評価されています。そのため、ESGの評価が高い企業に対する投資が集まってきており、ESG投資の市場規模が急成長しています。
(出所:Global Sustainable Investment Review 2018)
The Global Sustainable Investment Alliance(GSIA)が2018年にESG投資の世界動向をまとめたレポート「Global Sustainable Investment Review 2018」に、日本を含めた各国のESG投資額が示されています。
全世界におけるESG投資総額は、2016年約23兆米ドルとなっていましたが、2018年には約30兆米ドルまで市場規模が成長していることが分かります。わずか2年間で134%の成長となっています。中でも、市場規模が大きいのが欧州と米国となっており、2018年の市場は欧州が約14兆米ドル、米国が約12兆米ドルとなっており、これらの国々で市場の約85%を占めています。
一方、日本の市場は2016年4,740億米ドルでしたが、2018年には約2.2兆米ドルにまで成長し、2年間の成長率は約460%となっており、急成長していることが分かります。では、ESG投資にはどのような種類があるのでしょうか。
4. ESG投資の種類
ESG投資にはいくつか種類があり、ESG投資市場のレポートを出しているGSIAが以下7つに分類しています。
・ネガティブスクリーニング(Negative Screening)
ネガティブスクリーニングとは、社会的、または環境基準を満たさない企業を排除する投資方法を指します。例えば、社会的・環境的にあまり良い影響を与えると考えられないタバコやギャンブル製品関連、武器製造会社、原子力発電などの銘柄以外に投資されます。
・ポジティブスクリーニング(Positive Screening)
ポジティブスクリーニングは、ネガティブスクリーニングとは対義で、ESGへの取り組み評価が高い企業に投資する手法です。社会的な意義が高いことから、中・長期的に業績の向上が見込まれ、長期的に大きなリターンが期待できます。
・規範に基づくスクリーニング(Norms-based Screening)
規範に基づくスクリーニングは、国連のグローバル・コンパクトなどが定める人権、労働、 環境などに関する国際的な企業行動規範を投資の基準とする手法です。ネガティブスクリーニング同様、同規範を満たさない企業を除いて投資が行われ、例えば、経済協力開発機構が定める「経済成長」、国際労働機関が定める「児童労働」などの規範が挙げられます。
・ESGインテグレーション型(ESG Integration)
ESGインテグレーション型は、インテグレーション(一体化・統合)という言葉があるように、従来の財務情報を基準に考える投資方法ではなく、ESGなどの非財務情報を絡めた投資方法です。財務状況とESG評価を組み合わせた総合型な判断を行い、投資されます。
・サステナビリティテーマ投資型(Sustainability-themed Investing)
サステナビリティテーマ投資型は、文字通り特定のテーマに対して投資を行うことを指します。例えば、再生可能エネルギーやグリーンボンドなどの環境テーマを対象に、企業を選別して投資が行われます。
・インパクト投資型(Impact Investing)
インパクト投資型は、社会へのインパクト(影響力)が高いと見込まれる企業への投資のことを指しています。大企業に限らず、中小企業でも社会的インパクトを与えうる技術・サービスを持つ企業に対し投資が行われます。中小企業も含まれており、一般的な投資に限らずベンチャーキャピタルなどの非上場企業への投資も含まれます。
・エンゲージメント・議決権行使型(Corporate Engagement and Shareholder Action)
エンゲージメント・議決権行使型は、株主が株主総会での議決権行使や経営への働きかけを通して、企業がより積極的にESGに取り組むように努める方法を指します。このように積極的に経営に対して働きかける株主は「アクティビスト」などと呼ばれています。
5. 企業がESGに取り組むメリット・デメリット
メリット
メリットとしては、ESG投資が盛んであり、企業の資金調達が安定しやすい。中長期的に安定した財務基盤の構築に寄与することがあげられます。これまで述べてきた通り、ESG投資の総額は日本だけでも急成長しています。投資家は企業の財務状況含め、環境・社会・ガバナンスの観点から社会的意義の高い事業を展開している企業に注目し、積極的に投資を行う傾向にあります。これはESGに積極的に取り組むと、長期的なリターンが見込めると考えられているからです。結果的に、日本のESG投資額は2016年に比べ、2018年には4.6倍の2.2兆米ドルにまで増加しています。各企業はESGに積極的に取り組むことによって、投資家から高い評価を受け、ブランド力・イメージ向上に限らず、資金調達に繋がります。またESGに取り組む企業は、事業の透明性も高く、社会的意義も高いことから、事業縮小など様々なリスクが小さいと考えられ、長期的にも安定した財務基盤を構築するポテンシャルも高まります。同時に、投資家にとってもリスクが小さいのは非常に重要です。
デメリット
一方で、ESGに取り組むデメリットも少なからず考えられます。それが、ESGを意識するあまり、投資に対するリターンが薄利になること可能性があることです。企業がESGを見据えて事業を展開していくことはより重要になっています。ESGに取り組むことで、ブランドイメージの向上や資金調達も可能になりますが、ESGは将来的に堅実なキャッシュフローを生み出す可能性はあるものの、短期的には大きな利益を生み出しにくいというリスクがあります。
企業がESGに注力することも重要ですが、既存事業を拡大しつつ、ESGにも注力する「バランス力」が安定した経営を営んでいく上でより重要だと考えられています。
6.まとめ
近年、注目されているESGですが、企業は自社の技術やリソースを用いて、様々な取り組みが行われています。企業は、利益のみを追求するのではなく、ESGに対して様々な取り組みを行うことで、社会的貢献度も高く、投資家からの資金調達にも繋がる仕組みとして注目されています。今後も財務情報に加え、ESG評価を含めた総合的な判断で投資判断が行われる傾向は続くと見込まれ、各社の取り組みや投資家の動向に注目が必要です。