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太陽光も利用した新しい農業スタイル:営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)

公開日:2021年02月19日

はじめに


ここでは、普及が進んできた営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)について解説しています。


1. 日本の農業の現状


 「農業」は数ある産業の中でも古くから営まれてきた産業であり、人々の生活を支えてきました。しかし、日本の農業は現在数多くの問題を抱えており、その一つの問題点として「農業従事者数の減少」が挙げられます。農林水産省の資料によると、日本の農業従事者数は、2000年には約390万人となっていますが、2019年には約168万人と農業従事者数は半分以下に減り、減少の一途を辿っています。加えて、日本社会全体で問題となっている「少子高齢化」に関しても農業に影響を及ぼしており、2019年の農業従事者の平均年齢は66.8才(2000年時は61.1才)と定年を超えた方々によって支えられているのが現実です。

 では、なぜ日本の農業従事者数は増加しないのでしょうか。考えられる大きな要因の一つに「農業ビジネスの不安定さ」が上げられるでしょう。農業ビジネスで売り上げを考える場合、一般的に「農作物の単価をあげる」か「販売量(生産量)を増やす」、その両方を実行するなどが考えられます。

 しかし、農業はそんなに単純ではありません。なぜなら自然を相手にしているからです。近年、日本を含む世界全体で「気候問題」が議題に取り上げられています。世界各地で巨大なハリケーンや台風、地震、日照りなど様々な問題が人々の生活に影響を与えており、農業も大きく影響を受けているのが現状です。日本でも、昨年豪雨による洪水被害により、農作物がほとんどだめになってしまう地域もありました。

 そこで、近年注目されている新しい農業スタイルの一つとして「営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)」が挙げられます。農業を営みながら太陽光発電事業も並行して行うことで、昨今の洪水被害が発生しても、太陽光発電事業による収入は確保され、より安定した事業を営めるということで、近年導入数は増加傾向となっています。今回は、今最も注目されている新しい農業の形「営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)」について、そのメリット・デメリット、導入方法、最適な作物などを解説していきます。



2. 営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)とは?

 営農型太陽光発電(以下、ソーラーシェアリング)とは、文字通り「農業を営みながら、太陽光発電を行う」ことです。

 農家は保有する農地で作物を栽培しながら、その農地に支柱を設置し、太陽光パネルを取り付け、発電事業を行います。太陽光パネルを設置する支柱の高さは3~5m前後が一般的で、太陽光パネルと太陽光パネルの間にはスペースが開けられており、その隙間から農地に向かって日が差し込むことで、農業も行うことができるようになっています。ソーラーシェアリングは、普段農業では使われない農作物の上の空間を使用することで、土地や資源を有効活用できる取り組みとして注目されています。

 そして、ソーラーシェアリングの一番の魅力は、農業収入だけでなく、太陽光発電で作った電力を売ることで、売電収入を得ることができ、全体収入の増加が期待されること、また農業が自然災害による被害を被った際も太陽光発電事業からの収益が確保できる点と言われています。


(出典:農林水産省HP「営農型太陽光発電について」より)

3. ソーラーシェアリングが増加している?

 2013年、ソーラーシェアリングが政府によって認められ、同年度に政府が許可した件数は96件となっており、ソーラーシェアリングに利用される農地は19.6haでした。しかし、2018年度には単年で481件が認可を受け、146.9haの農地にソーラーシェアリングが導入されました。2013年度以降、認可件数に多少の上下はあるものの、年間約300〜400件程度がソーラーシェアリングを導入しており、2018年度の481件は過去最多で、ソーラーシェアリングの導入数は右肩上がりで増加している、今注目の農業スタイルです。


(出典:営農型太陽光発電設備設置状況詳細調査(平成30年度末現在) 調査結果について(令和2年3月)」より)

4. ソーラーシェアリングを導入するためには

 では、毎年、これだけ増加しているソーラーシェアリングを実際に自分たちでも導入するにはどうすればよいのでしょうか。

 まず、ソーラーシェアリングを導入するためには、「農業委員会」に「農地転用の許可」を申請し、許可を得なければなりません。農業委員会とは、農地法に基づく売買・貸借の許可、農地転用案件への意見具申、遊休農地の調査・指導などを中心に農地に関する事務を執行する行政委員会として市町村に設置されています。

その農地転用の許可を得るためには、主に以下の条件が求められています。

  • 発電事業をしながら、営農における収量や品質の確保等が確実であること
  • 設置する支柱は簡易構造で撤去が容易であること
  • 発電設備の下の農地で適切な営農が確実に継続されること
  • 農作物の生育に適した日照量を保つこと
  • 農業機械等の利用が可能な高さ(最低地上高2m以上)の支柱であること、など

 農地転用の許可を得るには、上記の条件を満たすことを農業委員会に説明することが必要となり、その申請には営農計画や専門家からの意見書(営農意見書)、太陽光パネル設置業者からの見積もり書などの書類を農業委員会に提出しなければなりません。

 特に「専門家からの意見書(営農意見書)」が申請において重要項目となっています。ソーラーシェアリング事業は開始してからそれほど年月が経っておらず、事例としてもまだまだ少ないのが実情です。そのため、営農計画を提出しても、その計画通りに営農できる根拠となるデータ等が取れず、信憑性が欠けるというのが申請の一番の難しいところです。そこで、その営農計画の信憑性を裏付けるためにも、専門家等の有識者から「意見書」を貰わなければいけません。その専門家というのは、例えば大学の教授やJAの指導員などがあげられます。

 これらの書類を準備して、農業委員会への申請を行うのですが、全国の農業委員会として一定のガイドラインを定めておらず、農地転用の許認可の基準に関しても各農業委員会に帰属するところが多いようです。そのため、ソーラーシェアリングを始めたい場合は、まずお近くの農業委員会へ相談することをお勧めします。

5. ソーラーシェアリングのメリット・デメリット

 ソーラーシェアリングが毎年数百件単位で増加しているのは、なぜなのでしょうか。そのメリットやデメリットを解説していきます。

5-1<ソーラーシェアリングのメリット>

①農業だけでなく、発電事業による売上が見込める

 ソーラーシェアリングの一番の魅力は、「農業以外の収入」を得られる点です。農業だけを営む場合、「農業収入のみ」で生計をたてる必要がありますが、上述にある通り、近年は自然災害を含めた予測不能の事態が頻繁に発生しており、不安定な状態が続いています。洪水による農作物収穫の被害を被った場合でも、ソーラーシェアリングを実施していれば、発電事業による収入は確保され、収入が「ゼロ」になることがありません。ソーラーシェアリングを導入することによって、より安定したビジネスを行うことが可能になるのが一番のメリットでしょう。

②太陽光パネルを設置することで作物にも好影響の場合が!

 太陽光パネルは、農地の上部に設置されることから、日光を遮り作物の成長を妨げると思われがちですが、作物によっては影が多い方が好影響を及ぼすケースがあります。このような作物を「陰性植物」と呼ばれており、1日に1時間前後の日射時間でも問題なく育てることができます。例えば、しそやミョウガ、ニラ、みつばなどがあげられます。最適な作物を選択することで、従来よりも収穫量がアップするケースもあるようです。

5-2.<ソーラーシェアリングのデメリット>

①3年に一度、更新許可の申請が必須

 ソーラーシェアリングの農地転用は、あくまで「一時転用」となっています。原則、転用期間は3年間と定められているため、転用期間が終了すると再度申請して、新たな3年間の転用許可を得なければなりません。そのための書類作成など、手間の手間が発生してしまいます。

 また、更新許可の申請以外にも毎年収穫量などの報告義務が発生します。原則、転用期間は3年間となっていますが、再許可の条件としてソーラーシェアリングと営農の両立が条件となっており、周辺地域の平均収穫量を2割下回ってしまった場合、再許可が難しくなる場合があるようなので、注意しなければなりません。

②発電設備のメンテナンス

 ソーラーシェアリングは、営農だけでなく発電事業も行っているため、発電機器のメンテナンスも気にかけなければなりません。発電事業も行っている以上、太陽光パネルの発電効率は重要であり、初期投資の早期回収をするためにも定期的なメンテナンスは行った方が良いでしょう。

③作物を育てなければならないという手間暇

 ソーラーシェアリングの場合、あくまで農地の上で発電するため、当然作物を育てなければなりません。その土地等にあった作物でないとうまく育てることができないですし、苗を植える、農薬の散布、水やり、草刈り、収穫などかなりの手間隙がかかります。また、自分たちだけで賄うことができないような場合でアルバイトなどをヘルプを頼む場合、人件費等が別途必要になります。

6. ソーラーシェアリングに適している作物

 上述のソーラーシェアリングのメリットでも少し触れていますが、作物によってソーラーシェアリングに向いている作物とそうでないものに分けることができます。

作物は一般的に日光を浴びることによる光合成と水を吸収することで成長しますが、ソーラーシェアリングを導入する場合、作物の上部に太陽光パネルが設置されるため、日光があたりにくいという特徴があります。しかし、作物によっては日光をそれほど必要としないものもあり、これら作物が比較的ソーラーシェアリングに適した作物と言われています。これら作物は、「陰性植物」と呼ばれています。

陰性植物は、比較的暗い場所を好み、光合成量や呼吸量が小さい傾向にあります。つまり、ソーラーシェアリングで作物への光が遮られることによって、より適した生育環境を作れる作物が陰性植物と言えます。陰性植物は、1日1~2時間の日射でも生育できるのが特徴です。陰性植物は、以下の例が挙げられます。

  • しそ
  • ミョウガ
  • ニラ
  • みつば
  • クレソンなど

一方で、陰性植物の対義語として陽性植物があります。陽性植物は、日当たりの良い場所を好み、日陰では非常に生育が難しく、日射時間も1日6時間程度必要となります。そのため、ソーラーシェアリングにおいては陽性植物を育てるのはあまり向かないでしょう。陽性植物は、以下の例が挙げられます。<br>

  • キャベツ
  • はくさい
  • とまと
  • たまねぎなど

また、陰性植物と陽性植物の間に「半陰性植物」というものもあります。字のごとく、比較的暗い場所でも、また明るい場所でも生育することが可能な植物で、1日2~3時間程度の日射量でも育てることができるため、比較的ソーラーシェアリングには向いていると言えるでしょう。半陰性植物は、以下の例が挙げられます。

  • いちご
  • ほうれんそう
  • レタス
  • しゅんぎく
  • じゃがいもなど

7. まとめ

 近年の気候変動の影響で収量の不安定さが懸念される農業でも、新たな取り組みとして「ソーラーシェアリング」が注目され、導入農家数も年々増加傾向にあります。農業だけでなく、発電事業による収入を得ることで、より安定した事業基盤を保つことができる点が一番の魅力ではないでしょうか。

 3年毎に申請書類の提出などが必要にはなりますが、作物の種類によっては現状よりも収量アップが期待でき、且つ売電収入を得られるソーラーシェアリング、一度お近くの農業委員会にお話を聞いてみても良いのではないでしょうか。


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